九州の食卓編集長の
断食体験日記
11月24日(水)
元来の大食漢であり、食いしん坊である。朝食が済めば、昼食は何を食べようかとそわそわし、昼食が終われば夕食のメニューを嬉々として想像している。
身長は182センチ、体重は88キロ。腹囲は96センチと、押しも押されもせぬメタボである。靴下を履くのが、ちょっとつらい。40代以降は、体育座りが苦手になった。健康診断では尿酸値と中性脂肪、肝機能、血圧で引っかかるのが毎度のパターンだ。
日常生活は、不規則極まりない。夕食は午後10時を過ぎることがほとんどだ。晩酌はほぼ毎晩。一方で、家で食べる食事には贅沢をさせてもらっている。野菜は有機野菜の宅配を2カ所にお願いしているし、卵も平飼いのものを届けてもらっている。調味料も無精製、伝統製法のものに切り替えた。食事は野菜と魚中心で、肉は時々。
そんな支離滅裂の私が、断食に挑戦することになった。自分で言い出したことなので仕方ないのだが、正直なところ不安があった。我慢できなくなって暴飲暴食に走るのではないか…、そうすればこの企画自体が成立しなくなる。そんな不安を胸に、前の夜はいつもの晩酌に溺れた。
今回申し込んだのは、熊本県菊池市にある「菊池養生園診療所」のリフレッシュ断食。2泊3日のコースだ。料金は3万円。寝泊まりは診療所内の病室、健康診断の結果を元に、無理なく断食体験ができる。何といっても病院での断食なので、安心感も高い。
さて、初日は朝食抜きで来院、オリエンテーションの後に健康診断だ。身体測定、血液・尿・心電図などの検査を行う。昼食タイムには、昆布とかつおでとった出汁に、薄口と塩で味付けしたすまし汁が出た。このあたりまでは、まだ気が張っているせいか、空腹も感じない。
午後から座禅に出かけ、帰りに温泉。養生園に戻ってからは、入佐孝三園長の断食に関する講話を拝聴する。そして午後5時には夕食。今度は根菜類のスープだ。もちろん固形物は一切入っていない。わずか2分で夕食終了。噛みながらスープを飲むと、空腹感が満たされると聞いたたので実行してみる。
午後6時にはすることがなくなり、持ち込んだ大量の本を読み出すも、午後8時には睡魔に襲われる。こんな時間に寝るのは40年ぶりくらいだ。
11月25日(木)
夜中に目が覚めることもなく、午前6時まで熟睡。まだ薄暗いので、少し本を読む。心配していた空腹感は、まったくない。起きて鏡の前に立つと、顔が気のせいか少しほっそりしているような気がする。そしてさらに気づくと、一年中むくんでいる手足が、何だかスリムになっている。体が軽い。
2日目の日程は、すまし汁の朝食の後、近くの菊池渓谷へ。午後は、検診結果の説明を受けて、温泉入浴というもの。看護師さんが付きっきりで「水分を摂ってくださいね」と水のペットボトルを差し出してくれる。中には低血糖になって、頭痛や吐き気を感じる人もいるようだが、私はすこぶる快調。「2日目の夜がきついかも」といわれていたが、空腹感はどこへやら。食べたい衝動も、なぜか消えてしまっていた。
11月26日(木)
前日に続き、十分な睡眠の後に快調な目覚め。窓を開けると、ひんやりとした風が吹き込む。それが妙に心地よい。気持ちが穏やかに、優しくなれるという話も聞いていたが、なるほどそんな心持ちだ。感覚的にも、普段は見逃している風や光や鳥の声などに敏感になっているような気がする。今まで体にまとわりついていた薄い皮がぺろりと剥けて、体中が鋭敏になった感覚だ。
朝食の前にトイレに行くと、丸2日食べていないのに、びっくりするような立派な便が出る。これも久しぶりの感覚だ。朝からの尿検査では、お待ちかねのケトン体が出ていたが、体調不良の気配は皆無。逆に気分は爽快、空腹感もまだない。このまま一生スープだけで生きていけるかも、なんて考えてしまうほどだ。
目にみえての変化は、むくみがとれたことと、肌がつるつるになったこと。本当につるつるになった。これには驚いた。体重は3日で2・3キロ減。
それにも増して、久しぶりのゆっくりと流れる時間に身をゆだねる感覚が心地よかった。いかに食べることを中心に自分の時間が回っていたかを痛感し、だからこそ〝食〟を大切にしなければいけないと実感。文字通り、最高のリフレッシュとなった。
3日目の昼食に少食が出て、久しぶりの固形物が胃に入る。断食が終了し、養生園を出た途端、腹に空腹感を覚えた。食べると、腹が減るのだということを知った。
(「九州の食卓」2010年冬号より転載) |